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November 22, 2008

アジアレビュー2号2007.11 安全保障から見た東アジア共同体論

安全保障から見た東アジア共同体論
                                   天児 慧
東アジア共同体(EAC)構築をめぐる現段階
 よく知られているように1997年の「アジア金融危機」以来、各国・各界で東アジアの地域協力の必要性が叫ばれるようになった。ASEAN+日中韓サミットも定例化し、その中で生まれたEASG(スタディグループ)、EAVG(ヴィジョングループ)など政府シンクタンクベースでの東アジア共同体構想も提起され、議論が活発化した。これまで具体的問題に関では当事者二国間交渉を原則とし、それとグローバルな大戦略論(例えば「三つの世界論」「大三角論」など)しか持たなかった中国も2000年前後から中国は周辺地域との協力メカニズムの構築に積極的に乗り出すようになった。まさに近年の「与隣為善、以隣為伴」(隣と仲良くし、隣をパートナーとする)、「和隣、睦隣、富隣」という表現に集中的に見られる。そして、それはやがて「東アジア共同体論」に発展していく。
中国の東アジア共同体構想の段取りとして2003年に王毅外務次官は、①東アジア共同体の意味を速く定める必要はなく、しばらくは経済協力に重点を置き、着実に安保対話と協力を展開する、②ASEANの主導的役割を支持し、同時に日中韓の優位性や役割をなるべく発揮するようにする、③日中に主導権争いがあるとは考えず、日中協調を通して東アジア地域協力の発展を望む、④米国など域外諸国との対話と協調を重視し「開かれた地域主義」を実行するなどを力説した。
では、なぜ中国はこれほどまで熱心に「地域共同体」の創設を目指すようになってきたのか。当面の意図はともかくとして将来、国際社会全体に影響を与える独自の「東アジア秩序枠組み」の構築が目指されているように見える。まず東アジア地域全体が総合的力量を増し、そして何よりも中国自身の台頭が顕著である。したがって東アジアが地域的な固まりとなることができ、その上で当面は抑制的であるが同地域での中国イニシアチブが発揮できるなら、長期的に見れば根底的には納得していない「米国一国覇権秩序」への揺さぶりをかけることができる。つまり一定の時間をかけて将来、「米国を軸とする北米+EU+東アジア共同体(EAC)」の<3圏中心型国際秩序>の形成を構想しているように見えるのである。
もっともこの場合最大の問題は米国との関係を、そして中国イニシアチブに警戒感を隠さない日本、ASEANの幾つかの国との調整をどのようにするかである。2005年12月に開かれた初めての東アジア・サミット(EAS)において、「東アジア共同体」参加国をめぐりASEAN+3を主張する中国と、豪州、ニュージーランド、インドを加えたASEAN+6を主張する日本(その背後には米国あり)とが最初から激しく火花を散らせた。最終的には中国は極めて妥協的で、EAS会議でのASEA+6を受け入れた。
しかし、その後中国はEU、ロシア、中央アジアそしてアフリカとの関係強化に力を入れ、東アジア共同体構築に関してはトーンダウンの印象がぬぐえない。同時に日本も07年前半の安倍総理が自由・民主を共有する国々との連携強化という「価値観外交」を展開し、ASEAN自身も2020年設立を目指していた「ASEAN共同体」を2015年に繰り上げ優先的に推進するといったように、東アジア共同体そのものの議論が停滞している。それでも経済について言えば東アジア地域協力の実態は着実に深まり、同時に地域FTAなども進展し、緩やかではあるが経済共同体への方向を歩んでいるように見える。
未成熟な安全保障共同体のインフラストラクチュア
しかし、安全保障の分野は他の分野と比べはるかに多くの困難性を伴う。最大の問題はここでもやはり中国が急速に軍事力を強化し、それに伴って従来のアジア地域安全保障協力の構図が変化してきたことであろう。例えば国防費を見れば、1991年 (62億ドル) 以来前年比2ケタ台増で、2006年は450億ドルと日本の防衛予算を超えた。しかも予算上不透明な部分が多く、実際には西側専門家筋では公表の2~3倍とみている。それは当然にも兵器能力の大幅なアップにもつながり、新型戦闘機、ミサイルの増強、ハイテク兵器の大幅な強化などをもたらしている。ハードな安全保障の面から見れば、こうした変化が「中国脅威論」の主要な根拠になっていることは疑いない。
しかしより注目すべき点は、軍事力の増強と合わせて、周辺諸国を中心に地域安全保障協力を積極的に展開していることである。ここ1~2年来の動向を見ると、中国が東アジア地域において経済にとどまらず、安全保障分野においても地域協力メカニズムを構築することに熱心になっていることがわかる。例えば、現段階では象徴的な意味しか持たないが、03年夏、中国自身が東南アジア条約機構(TAC)への加盟を表明、さらに04年7月のASEAN地域フォーラムで、李肇星外相が「地域安全保障協力に積極的に参加する」と表明し、第1回安全保障政策会議を中国で開催することを提案し決定した。また03年8月以来始まった朝鮮半島核問題をめぐる「6カ国協議」でも、中国は積極的にイニシアチブをとっている。
1996年に旧ソ連邦諸国(4カ国)との間で発足した「上海5」は、2001年にウズベキスタンを加え国境近辺のエスニックの分離・独立の共同取り締まり、経済協力の強化を目指し「上海協力機構」(SCO)として発足した。しかし03年以来国際テロリズムへの対処を目的とした合同軍事演習を実施するようになった。05年にはロシアとの軍事演習、06年はSCO参加国全体での軍事演習を実施(後述)、さらにSCO会議で当地域に配置されている在留米軍の早期撤退を要求し、同時にインド・パキスタン・イラクのオブザーバー参加を認めた。こうした動向の真の狙いは十分には明らかではない。しかし、総合的に見れば米国の影響力が相対的に弱い近隣地域での安全保障協力の制度化を図っていることがわかる。
 おそらく中国の軍事的プレゼンスが、①当面する直接的な軍事的脅威(台湾)、②地域バランスの転換という意味での戦略的脅威(日本・ASEAN)、③世界秩序に挑戦という将来的な脅威(米国)を引き起こしてきており、これらと如何に調整を図り、アジア太平洋の平和と繁栄を保証する安定的システムの構築に向けて、秩序を再編成していくかがこれからの重大なテーマとなっていく。
協調的安全保障の必要性の高まり
 そこで以上のような現段階の特徴を踏まえ、現実的なアプローチから協調的安全保障の制度化をどのよう図るかを考えてみよう。第1は、日・米・中をはじめこの地域での相互依存・協調と、対立・不信が分野韓、分野ごとに複雑に並存し絡み合う構造ができてきたこと、客観的には相互依存・協調の関係は深まりながらも、心理的にはそれぞれの対立・不信も弱まっていない、むしろ時には強まっている状態が続いていることである。当面、米国は日米同盟をさらに強化しながら中国を「ステーク・ホルダー」としてエンゲイジしていこうとする傾向が主流である。とくに北朝鮮の核兵器の無能力化、朝鮮半島の非核化を目指し、米中は基本的には共同歩調をとっている。「6カ国協議」は日・米・韓と中・ロの協調的安全保障を考える重要な“場”である。第2は、中国は国内的な要因(経済成長の持続、エネルギー・環境・格差・腐敗などの深刻さ)によって、日中、米中、中台などの関係は基本的には相互依存・協調的な関係を強めたいと考えている。「和諧社会」の実現には特に日米の協力は不可欠と認識している。
そこで私見として、まず日中、米中、中台いずれにせよ、相互依存・協調の関係が相互不信・敵対の関係より強い構造を意識的に作っていくことが重要である。こうなれば前者は後者による暴発を抑制する力を持つことができる。前者を強めるには、共有する利益を増大させること、プラス・サム、マイナス・サムの共有が深まること、双方とも相手は自らにとって必要な存在であるとの認識が深まることなどが重要である。次に、日米中の間に安全保障をめぐる包括的な対話フォーラム(経済以外の分野も含む)、平和協力条約のようなアンブレラ枠組みをつくる。もちろんここでは明示的、暗示的はともかく「台湾問題での武力不使用」の合意を取る。こういった仕組みを大きな枠組みとして、個別の問題解決のための制度やフォーラムの場をつくることが東アジアにとって望ましいのではないか。

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